dancyu5月号は「ひとり呑み」特集。
こんなタイミングではありますが、発売中です。
いまはみんな家呑み。
けれど先々、いままでどおり外に呑みに行けるようになる日は必ず来る。
それまではこの特集をつまみに、
晴れて飲める日が来るのを静かに待ちましょう。
そうそう、家呑みの達人たちが、家つまみを教えてくれるページもあります。
それにしても。
この取材をしていたのは2月終わりから3月頭にかけてのこと。
まだ、どの店もお客さんで賑わっているころで、
ソーシャルディスタンスなんて言葉は影も形もない。
いつも通り片寄せるぐらいの距離感で、多くの人が気ままに酒場を楽しんでいました。
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表紙のイラストはタナカカツキさん。「バカドリル」が懐かしい! |
担当した記事の校了は3月23日。
その頃も、客足が減ってきたとはいえ、
まだ多くの店が踏ん張りながら営業していました。
徐々にテイクアウトを平行する店も出てきはじめ、
様子が一変したのはその後、4月7日の緊急事態宣言が出されてから。
店の営業を縮小して続けるべきか、自粛すべきか、
あるいはテイクアウトで続けていくかという判断も、
自分で決めてくださいという状態。
強制的に店を閉めなさいという通達はなく、
決断は自己責任でと押し付けられてしまった。
経営者への補償はないも同然。
困っている人には融資するっていうけれど、それは実際借金と変わらない。
それってつまり、天地がひっくり返るような荒波を、
しかもいつ止むかわからない状況の中、自分の力だけで泳ぎ切れということなのか。
頼りになりそうな大型救助船は一隻も出ないどころか、
救命ボートも、浮き輪も、小枝すら投げないのか。
飲食の場で生まれる数々の縁や友情や愛情が、
文化へと熟成する創造のもとを生んできたんじゃないのか。
世界を形作る最小単位である、家族やコミュニティを作ってきたんじゃないのか。
楽しむときだけワイワイしておいて、常連顔しておいて、
困ったら知らないふりなのか。
9日現在、今月号のひとり呑み特集に掲載された飲食店の多くが
営業の形を変えざるを得ない状況にあり、
今回私はこの特集の町呑み企画で、北千住を紹介しています。
それぞれの店で、料理人やサービス人が重ねているもてなしの努力の積み重ねが、
店の中に漂う居心地のよさを作っていることが、よくわかりました。
お金とは別に、意欲や情熱、愛情という人の感情があるからこそ、
店は魅力的になる。
でもそのプラスの感情は、安心や信頼という社会の基盤なしには生まれません。
滑ったり転んだりして落ちても誰も助けに来ない崖っぷちで、
おもてなしの心なんて生まれるわけがない。
オリンピックで誰かをもてなす前に、
この国で生活する私たちが、まず互いを思いあえる環境でなければ、
海外からの訪問客に、ようこそなんて言えるわけがない。
本当はいま頃、掲載でお世話になった北千住のお店、
創業140年超の「大はし」をはじめ、「徳多和良」「オステリアルーチェ」「天七」「アタル」のみなさんに、本誌をお渡ししながらお礼呑み参りをしているはずでした。
それができないことが悔しい。
あなたのお店がどんなに素敵かということを、呑みながら伝えたかった。
今、私に何ができるのか。
せめて書くことでお役に立てるのなら。
小枝の先のささくれでもいい、役に立ちたい。
そう思いながら、雑誌作りを続けています。
でも、この状況での取材にもそろそろ限界がある。
本当に、どうしたらいいんだろう。