2013/05/14

ポルトガル取材 ヴィーニョヴェルデ編 その5

ああ、気がつけばもう半年近く過ぎている!

北部ミーニョ地域の6つのワイナリーやメーカーを
3日間で訪ね、ヴィーニョヴェルデだけで50種以上を試飲。
試飲に大事なのはまずは体力ですね
昨年秋、
ポルトガル北部のミーニョという地域へ
ヴィーニョヴェルデという微発泡ワインの
メーカーを訪ねる取材の旅に出ました。
昨年12月を最後に
半年近く途切れてしまいましたが、
これはその備忘録の続きです。

前回12月13日に書いた

ヴィーニョヴェルデ編 その4では、
ミーニョ最北の地域で
アルバリーニョというぶどう品種の産地でもある
メルガソ村を訪ねました。

そこでは、

微発泡のカジュアルラインばかりではなく、
アルバリーニョという熟成が可能なぶどうを使った、
リッチな発泡しないタイプのワインについて
醸造家に熱く語っていただいたのでした。





そして、芳醇なヴィーニョヴェルデを楽しみつつも、
でもやっぱり私はカジュアルな微発泡が好きなんだなあと
再認識したのでした。

私にとってヴィーニョヴェルデは、
毎日飲みたいデイリーワインなので、
ゴクゴク飲める軽やかさと
ショワショワな微発泡こそがポイント。
とくに夏は、ビール代わりの存在です。

熟成させ、ぶどうの豊潤さを楽しむタイプのワインは、

ヴィーニョヴェルデ以外の産地のポルトガルワインでも十分堪能できる。
ドウロやアレンテージョにだって
スティルワインのしっかりしたものはたくさんあるし、
もっといえば、イタリアやフランスやほかの国に数えきれないほどある。
だから、ヴィーニョヴェルデはそのしっかり系の味わいを
わざわざ担わなくてもいいんです。
ぶどうのおいしさを生かしながらも微発泡である軽やかなワインだからこそ、
和食にもよく合うし、飲み心地がいい。
だからヴィーニョヴェルデに魅かれるんです!

ということなんですが、

ポルトガルでワインを教えてくれたみなさんに、
果して分かってもらえたかなあ……。




さてヴィーニョヴェルデを巡る旅、
5つ目のワイナリーは
メルガソから少し南に移動した
リマの橋という名の町、
「ポンテ・デ・リマ」にありました。



悠々と流れるリマ川。
この日は風も穏やかで、
水面も静か。
水量豊富なたっぷりと流れる川は、
流れるというよりもむしろ、
水を湛えた大きな泉のように見える。
見ているだけで、
心が次第に落ち着いてきます。


このリマ川には、ローマ時代につくられた長い石橋が渡されています。
生活、観光、散歩で往来する人に混じって、
巡礼中のカトリック信者もちらほら見えます。
というのも、この道はカトリック信者が人生で一度はお参りしたいと憧れる
サンチャゴ・デ・コンポステラへ続く道でもあるのです。

私がのんびり歩いているそばを、

何人かトレッキングのような格好で通り過ぎる人達がいましたが、
彼らはまさに巡礼の最中でした。



おお、巡礼者って
意外とアクティブスタイルなのね! 
と驚きましたが、
四国巡礼の様に
着るものがとくに決まっているわけではないので、
現代はスポーティな人も多いんだとか。
なるほど。

私の勝手なイメージでは、

サンチャゴ・デ・コンポステラへ向かう人たちは、
もくもくと歩き続ける
熱心な信者という感じでしたが、
私が見かけた彼らは、
結構楽しそうにウォーキングを満喫しているような印象でした。




と、一見カジュアルな様子のサンチャゴ巡礼ですが、
私が見たのはいくつもある巡礼ルートの中の、ほんのヒトこま。
しかもこの巡礼の道のりは、ここまでもここから先もかなり長い!
楽しそうでありながらも、きっとみんな歩きながら自分の内面と対話して、
いろんなことを思ったり考えたりするんだろうなあ。

そもそも目的地に向かって長い道のりを歩き続けること自体、

強い意志(この場合は信仰心でしょうが)が欠かせないはず。
でも私は間違いなく、
歩きながらモヤモヤと生まれる煩悩(あの食堂おいしそうとか、おやつ食べたいとか)や、
どうでもいい思いつきにいちいち足を止めそうです。
そしていつのまにか、
「ゴールはまた今度」とか適当なことを言っていつまでも辿りつかなそう。

自分の中からあふれ出る欲望とどう戦うか、

その辺が難しそうですね。
私に巡礼は100年早い。

ところで、この橋ができたのはローマ時代だそう。

ヨーロッパを旅すると、
ちょくちょくローマ時代からの橋や道や建物などに出くわしますが、
そのたびに思います。
石ってなんて丈夫な素材なんだろう……。
1000年以上昔の物体がその場に残っているなんて、
考えれば考えるほど奇跡です。
そんなごっつい存在の石に比べると、人間はなんてもろいんだろう。
せめて精一杯生きないと、もったいないですね。

と、川や橋からいろんな刺激を受けながら、

5つ目のワインメーカーに到着。

Adega Cooperativa de Ponte de Lima

(アデガ・コーポラティバ・デ・ポンテ・デ・リマ)」
ポンテ・デ・リマ ワイン共同組合です。
社長のマリアさん(左)とペドロさん


ここで作っているヴィーニョヴェルデ、
私はちょっと思い入れがあるんです。

本をまとめるために

ポルトガル各地を取材していた数年前、
初めて北部を訪ね、ヴィアナ・ド・カステロそばの酒屋で飲んだ思い出のワイン。
それがこの協同組合で作っていた
「Ponte de Lima Adamado
(ポンテ・デ・リマ・アダマド)」でした。









「ポンテ・デ・リマ」の代表的なラインナップ

みるからにすがすがしい緑のボトル。
ほんのり甘いぶどうの味わい。
やさしいショワショワの泡。

これ日本に持って帰りたい!と
飲んでとっさに思ったのでした。

でも、ポルトガルの地方の協同組合のワインを

輸入する業者さんなんていないよなあ、
と思っていたら、
なんと昨年、このワインを輸入する業者さんが現れて驚きました。

こちら
ポルトガルワインの崖の上です。


この協同組合の定番であるヴィーニョヴェルデ「ポンテ・デ・リマ」白は、

上写真の右の2本。
甘味をほんのり感じる「アダマド」と
すっきり爽やかな「ブランコ」。
どちらもやわらかい泡とフレッシュな香りが特徴です。



種類豊富でつい迷い箸ならぬ迷いフォーク。
でもこのコウベールで欲張ると、
メインの料理をいろいろ食べられなくなるので悩ましい。
ポルトガル料理はいつも量との戦い
ポルトガルのレストランや食堂では、
最初にコウヴベールという
前菜セットが出てくるのが一般的ですが、
このレストランではたくさんの種類の前菜から
好きなものを好きなだけ取るスタイル。

マッシュルームのマリネに

空豆のワイン蒸し、
ひよこ豆のマリネに
ゆでたらこのマリネ、
豚の耳のマリネなど、
どれも素材の味をしっかり引き出す
やさしい塩加減と
さりげなく穏やかなハーブ使い。
まさにポルトガル料理の真骨頂です。

こういう前菜には、
ヴィーニョヴェルデはとくによく合います。




ちなみに、写真右から2番目の
茶色いボトル「ローレイロ」は、
同じ微発泡ヴィーニョヴェルデでも
よりエレガント。
土着品種「ローレイロ」100%で
香りの余韻が華やかです。
そして、右端の赤いボトルは
ヴィニャオンという
ポルトガルの土着品種を使った
赤の微発泡ヴェルデですが、
これが肉によく合います。








このレストランでも人気の

北部の定番干しだら料理
「バカリャウ・コン・ブロア
干しだらの変わりグラタン風)」(右写真)は、
干しだらの香ばしさが
ローレイロの香りとよく合うと、
醸造家のアナが盛んに勧めてくれました。

干しだらのソテーの上に乗っているのは

北部のとうもろこしパン・ブロアのパン粉。
ソテーした玉ねぎと香ばしいプロアで
干しだらをおいしく仕上げています。
ポルトガル北部を訪ねたら、
ぜひ食べて欲しい干しだら料理のひとつです。



肉にはオレンジスライスを添えて。
絞るのではなく、口直しにパクッと食べます
そして、赤ヴェルデには肉をということで、
左写真のビーフステーキや、
下写真の「カブリット・アサード(仔ヤギの石窯焼き)」が登場。

ポルトガル料理でいつも思うことですが、

肉料理の味つけがやさしいんです。
がっつりしたパワフルな見た目とうらはらに、
攻撃的な味がしません。
塩とビネガーをとても上手に駆使し、
肉のうま味を引き立てています。









3皿とも付け合わせはじゃがいもとブロッコリー。
肉には小ぶりのげんこつじゃがいもが基本

肉と一緒に飲む赤のヴェルデは、
ショワショワの微発泡のお陰で
しっかりしたタンニンもおだやかに感じます。
やわらかい泡で肉の脂をリセットすることもできるので、
私は大好き。

でも、赤ヴェルデが好きだと言うと、
ポンテ・デ・リマのみなさんにもまたびっくりされました。
北部で自分達の分だけ作ってきた赤ヴェルデは、
ポルトガル国内でも知らない人がいるぐらいで、
まだまだマイナーな存在なんだそう。
だから日本人が赤ヴェルデが好きだというと、
どぶろくが好きだというメキシコ人、みたいな
意外性があるのかも。


赤のヴェルデは日本でもよく飲んでいますが、
甘辛タレの焼き鳥や照り焼きなどの和食にも
合わせやすい。
ただし、白米とだけはけんかしてしまうので、
米料理と合わせたいときは
ポルトガル風に肉や野菜と煮込んだおじや風にします。

ちなみに、右の仔ヤギの皿の奥に

白い米が見えますが、
これは仔ヤギのだしで炊いた仔ヤギごはん。
肉汁がしっかりしみた米は、
赤ヴェルデと相性ばっちりです。



こちらの会社は、社長をはじめ、
醸造スタッフもマーケティングも、
どのポジションでも女性が活躍中。
珍しく、カルロス以外は全員女性という
華やかな食事になりました。

昼どきだったので、

リマ川沿いのレストランで
ランチをしながらの取材だったのですが、
話が広がり過ぎて
もはやワイン取材では話が納まらず。

自分の家庭料理のレシピから
働きながらの子育てについてなど
どんどん話題が広がって、
あっという間に3時間が経過。


とくに私の向かいに座った

ワイン醸造家のアナとは年齢も近く、
小さい子どもを保育園に預けて、
仕事が終わったら急いで迎えに行くのも一緒。
「自分の時間はないけど、今は仕方ないよね」とお互いにねぎらい合いました。
自分と似た環境の母ちゃんを見つけるとつい嬉しくなってねぎらい合うのは、
どこの国でも一緒。
母ちゃんは誰にもほめられない毎日なので、
せめてお互いの奮闘を励まし合いたいんです。
「あなた偉い!」
「そりゃ大変だ!」
ってね。



デザートタイムには
レストランのオーナーも話の輪に加わって、
オーナーが全国ネットのテレビに取材されたときの
録画まで見せてもらうことになり、
結局ランチは夕方まで続きました。

ちなみに、オーナーが自信満々で出してくれた

ポルトガルの定番コロッケ
「パシュテイシュ・デ・バカリャウ(干しだらコロッケ)」が
ふわふわでおいしかったので
全員でオーナーにレシピを聞きましたが、
「企業秘密だからひ、み、つ」と
なかなか教えてくれません。

そうなると、
女性のテーブルでは
まるで売られたケンカを買うかのように
レシピ談義勃発。


「このふわふわは卵白をメレンゲにしてるのよ」

「そうね、粉は控え目ね」
とみんなであれこれ詮索していたら、
「みんな、そこまで分かってるなら聞かないでくれよ!」
とオーナーはお手上げ顔でした。

ポルトガルの料理はレストランで出すものも家庭料理がベース。
つまり、主婦のレパートリーとさほど変わらないのです。
だから彼女達はレシピの解析など得意中の得意。
それを実感したひとときでした。