2018/03/08

彼女の姓、彼の姓、個々の姓とジェンダーギャップ~国際女性デーに思うこと

3月3日、ひな祭りを祝って家でちらし寿司を食べていたら、突然娘が聞いてきた。
「お母さん、私が結婚したら名前を変えなきゃダメなの?」


今年は確定申告作業が早めに終わったので、
久しぶりにちらし寿司を作ってひな祭り

その質問は、てっきり中学生ぐらいでされるものだとばかり考えていたけど、

今どきの9歳児、もうそんなことを考えているらしい。ちょっとびっくり。
「日本の今の法律だと、結婚相手と相談してどっちかの苗字に決めるんだよ」
「じゃあ、私が自分の名前を変えたくないって言ったらどうなるの?」
「相手の人が僕が名前を変えるよって言えば、今のままの名前でいられるね。でも、今のところ日本では、大多数の場合女性が男性の苗字に変えるから、それがいやなら相手に相談して名前を変えてもらうか、名前を変えないでもOKな国の人と結婚するかだね」
そんな風に娘に説明しながら、
実際はかなりハードル高い解決策だと思い、現状に溜息が出そうになる。
古すぎるルール、価値観。

「なんで女の人が変えないといけないの?男の人だって変えればいいじゃん」

ほんとそうだよね。
「私、自分の名前を変えるなんて絶対いや!」
そうだよね。
お母さんだってそうだったんですよ。

あなたが生まれる前、結婚して名前を変えたときはそりゃあやるせなくて、

自分のアイデンティティーがごっそり引き抜かれてしまったように感じたものです。
仕事のキャリア上、通称は旧姓を通していたけど、
戸籍上と民法上で名前を変えると、免許、パスポート、銀行口座その他と
変更手続きをしなければならず、しかもそれが有償、煩雑、時間を取るから
仕事にも支障が出る。
おまけに海外取材に行けば予約の名とパスポート名が違うとか、
あるあるミスがあちこちで起きて、
あれだけ苦労して苗字変えたのに本当に良いことひとつもなし。

その後離婚して戸籍上も民法上も旧姓に戻ったときは、書類に元の名前を書くたびに、

心から自分の名前だと思える署名をしながら、
失っていた自分自身を取り戻したという喜びをじんわりと感じ、安堵したものでした。
苗字の変更は、物理的な不都合以上に心理的なダメージも過大。
苗字を変えなくてもいい立場の人は想像もつかないと思いますが、
心理面のダメージを、そのぐらい我慢できるだろう、
みんな我慢しているんだからと甘く見てはいけない。
だって元の名前は、自分が生まれてからずっと、
何度もノートに書き、テストに書き、書類に書き、
友達や先生やその他多くの人に呼ばれながら、大事にしてきた宝物です。

さて、会話はそこからしばらく、日本の戸籍法のことや、

選択的夫婦別姓の活動が始まっていることなどを簡単に話す流れになりましたが、
娘はそんな細かいことより、
ルールがおかしいのにどうしてすぐに変えられないのかが全く納得いかない様子。
しまいには「結婚したくない」とか言い出したり。
そうだよね、名前を変えるって大ごとだよね。

娘の「いや!」という言葉は、

名前を変えることが当たり前という呪いのようなバイアスをかけられて、
我慢を余儀なくされているすべての人に聞いて欲しい、
はっとする心の叫びにも似ているなあと思いました。

現在、選択的夫婦別姓制度の実現に向けて、

サイボウズ株式会社社長の青野慶久さんが訴訟を起こし、活動されています。
毎日新聞の昨年12月22日のWEB記事でのコメントが簡潔だったので、
ここに転載します。

「自分がどんな名前で生きていくか自分で選ばせてくれよ」っていうだけの話です。「家族は同姓でなければならない」という強制が残っていることにすごく違和感を感じるんですね。世界的に見ると姓は選べて当たり前。しかも、夫婦同姓は改善した方がいいと国連から指摘も受け、さらに96%の女性が男性側の姓に合わせていることがジェンダーギャップの一つになってしまっている。それでも夫婦同姓であることを求めるということは、「一律」を求める文化が背景にあるのでしょう。ここに変化を加えたいんですよね。

そう、これもジェンダーギャップの一つ。
ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム」の2017年版報告書では、男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」で日本は世界144カ国中114位と過去最低。
ちなみに1位はアイスランド。
今年のアカデミー賞授賞式で、主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンの素晴らしいスピーチが印象的だったアメリカは49位、お隣り中国は100位。
比べても仕方ないけれど、比べればはっきりするこの順位の低さ。

9歳の娘が大人になる頃には、日本が個々の姓はもちろん、
あらゆる個人の意思が男女の性別に関係なく尊重される、
幅のある成熟した社会に変化していて欲しいと思う。
少なくとも就職の面接で、女子学生が面接官に
「結婚して妊娠したら仕事はどうしますか?」
なんて質問されることが、非常識だと認識される世の中であって欲しい。
今はまだ、そんな質問こそしなくても、顔に書いてある人がたくさんいる世の中だ。
変わっているようで、働く現場の意識はまだまだ変わっていない。

だからいまだに、裁量労働制なんて機能不全なシステムを公に認めさせようとする、
時代に逆行した事態になるのだ。
これに関しては、男女に関係なく誠実な働き手を死に追いやる、最悪の制度でしかない。

話しが大きくそれてしまったが、今日は国際女性デー。
世界は男女でできているのだからこそ、
互いに尊重し合って心地よく生きていけるシステムに変えていけたらと思う。
社会が変わるためにはまず、自分の家庭や仕事場、生活圏内での差別や固定観念を
できるだけなくすようにするしかない。
家庭内では、娘には女らしさではなく、
あなたらしさを追求する考え方で生きていくように、
言葉をかけていこうと思う。
そして自分自身も、自分の中にある固定観念に縛られないようにしたい。
私たちは男や女、仕事上の責任者やPTAのスタッフ、誰々のママやパパ、社会的な役割を背負う立場である前に、まず尊重されるべき繊細な心を持つ個人なのだから。

2018/03/05

2月の雑誌執筆など

2月はdancyu、料理通信などで執筆しました。
dancyuでは日本酒を、料理通信では青森県を取材。


ウェブもいいけど雑誌もね!

dancyuでは、三越前にある「麦酒庵 日本橋本町店」を取材。
店長で日本酒に詳しい玉木さんに和食と日本酒についてお話を伺い、
ご自身が熱烈おすすめな日本酒のお話もたくさん伺いました。
雑誌、特に専門誌はそうですが、たっぷり時間をかけてお話を伺っても、
文字数の制限があるのですべてをご紹介できません。
これ、いつも惜しいなあって思います。
デザインの制約上、小さな写真と100文字程度のキャプションで終わってしまったり。
細かい情報がもったいないなあ。
ページを作る上での編集作業に伴う情報の吟味でもあるのですが、
取材上のこぼれ話って私自身にとっても発見が多いものです。
WEB上で紹介するのもあり。
dancyu編集部さん、そろそろWEB強化しましょうよ。ぜひ。
ちなみにお店で一番印象的だったお酒は、千葉県にある木戸泉酒造のafs(アフス)。
生ガキと組み合わせて……、詳しくは本誌をご覧ください。

料理通信では、青森県で取材した大西ハーブ園、三沢漁港の平目、
長谷川牧場の熟成豚や下北アピオス、南八甲田の高原野菜、南部町の南部太ねぎなど。
大西ハーブ園の大西正雄さんの次の言葉が、特に印象的でした。
逆説的かもしれないけれど、私達は、美味しいハーブを作ろうとは毛頭考えていません。味は、食べた人の感じ方で差があります。でも、健康に良いかどうかは差がない。だから、まずは食べた人の身体に良いものを作ろうと思っています。決まりは唯一、科学的なものは使わない。これだけです。でも、結果としてどうやらそれが、おいしさに繋がっているようです
自然の力を最大限借りて、自然界からお裾分けをいただいているという考え方に成り立って、農業をされていらっしゃいました。

そして、料理通信WEBでは八戸市南郷地区で半世紀ぶりに復活させた
幻の調味料「すまし」を取材しました。
文字数制限がないので、腰を据えて長めのレポートにしました。

青森とは最近ご縁があるようで、3月もまた取材で伺います。
まだまだ雪深いんだろうなあ、青森。寒そうだけど楽しみ。