2014/06/13

大人と「孤独」

少し前の新聞で、
読者の投稿記事に目がとまりました。

学生の就職相談にのっているというその投稿者は、
ある日就活中の学生と面談をしていて、
「大人になるってどういうことですか」と戸惑いがちに質問されたそう。

学生は、
彼(または彼女)が通う大学のキャリアカウンセラーに
「もっと大人になりなさい」ときつく言われて
大学の窓口に行けなくなった。
だから投稿者は、
カウンセラーは学生を傷つけないように指導すべきでは、
と書いていました。


カウンセラー云々についてよりも、
私はこの投稿者が
「大人になるっていうことは」どんなことなのか、
なんと学生に説明したんだろうと、
そこばかりが気になりました。

「大人になるってどういうことですか」
こんな大きな疑問、
大人にだってよくわからないというのが、
実際のところのような気もします。

でもひとつ思うのは、
大人になるっていうことは、
もしかしたら「孤独」とうまく向き合うことなのかもしれない。


「孤独」について考えはじめたのは、
高校生の頃でした。

都内の高校に通っていた私は、
ときどき仕事帰りの母と待ち合わせて甘味屋さんに行き、
一緒に電車で帰ることがありました。

その電車の中でいろんな話をしたのですが、
あるとき
「人はみんな孤独なのよ」と母に言われたことがありました。
当時部活のジャズダンスが人生の8割を占めていて、
踊るか、友達と喋るかばかりの毎日だった私には、
「孤独」ということがよく理解できていませんでした。
だから「だって、みんな友達とか家族とかいるでしょ」と答えました。
すると母は「それでも、人は孤独なのよ」と言いました。

確かそのあとは、
「でもお母さん、今は私と一緒じゃん」とか、
これまた能天気な言葉を続けた気がします。

でも、そのとき母の口から出た「人はみんな孤独」という言葉は、
その後ずーっと私の頭の片隅に残り、
いつも反芻するテーマのようになりました。

やがてカトリック系の大学に入り、
神父の教授による「死の授業」という哲学の講義が始まって、
確かその最初の授業で、
家族について書きなさいと言われたのです。

浪人して19歳になり少しだけ大人になっていた私は、
「家族は欠かせない存在だが、結局人間は所詮ひとりで生きるものだ」と書いて、
意見を交換した隣の席の友人にドン引きされた記憶があります。

このとき私は、
どうして人は所詮ひとりで生きるものだと書いたのか、
どこでそういう考えになったのか、
よく覚えていません。
でも、それから今までずっと、
その考えは変わりません。

ただ、所詮ひとりで生きなければいけない人間だからこそ、
誰かの力が必要だし、
誰かに支えてもらったり、
誰かを支えなければ、
生きることを全うするのは難しい。
それは大学を卒業して、
社会人になり、
仕事をしていくうちに強烈に学んだことでした。

ひとりひとりの中にある「孤独」をしっかり意識しているからこそ、
人は人に頼り、頼られ、それを感謝や満足に変えて
気持ちのキャッチボールをするものなんだと。
そのキャッチボールが多ければ多いほど、
「孤独」は怖いものではなくなっていくんだと。

さらに、仕事ばっかりの社会人生活が続いた先に子供を産んだら、
今度は「孤独」にはまた違った種類のものがあることを
子育てしながら知ることになりました。

子育てをしながら感じた「孤独」は、
仕事中心の社会人の頃より、もっと動物的な感覚としての「孤独」です。
まるで自分が、
賑やかな草原の群れから遠く離れて、
水のある小さな岸辺でひとりぼっちで子を育てる
弱い生き物、みたいに感じたのです。
物理的に社会と隔絶されることで、
肌で感じる強烈な「孤独」です。

だからこそ、積極的に地域や社会と関わって生きようとするようになるし、
また、自分が社会全体に支えられて生きているということも、
身を持って実感するようになりました。


さて。
「大人になるってどういうこと?」
とこの先子供に聞かれたら、
私はなんて答えよう。

「孤独」とうまく付き合えるようになること。
そんな風に答えたいけれど、
でもこれって、
たとえば能天気な高校生時代の私にはさっぱり???な答え。
やっぱりこの質問、大き過ぎて答えるのが難しい。

でも、
いろんな「孤独」を知った先にこそ、
大人になるということへの答えが自分で見つけられるんだろうと、
今の私はそんな風に思っています。

それにしても、
この新聞の投稿者は
学生になんと答えてあげたのか。
新聞を閉じてもなお、
しばらく気になって仕方がなかったのでした。

大体、カウンセラーという人も、
何を意味して「もっと大人になりなさい」と言ったんだろうか。

と、もやもやと気になる箇所が多い投稿記事でした。

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