2012/10/17

ポルトガル取材 ヴィーニョヴェルデ編 その3

ギマランイシュの
「ADEGA COOPERATIVA GUIMARAES」
の次に訪ねたのは、
ポルトガル最北、
スペイン国境でもあるミーニョ川沿いの町
メルガソにある
「Quinta de Melgaco」
メルガソブドウ農園、
いや、メルガソワイナリー。

メルガソには夕方頃に着いたのですが、
最北ともなると結構寒い!
10月1日とまだ秋がはじまったばかりなのに、
みんなしっかりした上着を着て作業していました。

このメーカーは周辺約500の農園と契約していて、

今は収穫の最盛期。
夕方になっても手摘みされたブドウが
どんどん運ばれてきます。
だからあたりが暗くなるこの時間でも、
トラックがブドウを次々と運んできていました。




ブドウを手摘みする理由はいくつかあります。
まず手摘みだと、機械に比べて
ブドウそのものにダメージを与えにくいから、
結果的にワインの質が良くなる。
また、このミーニョ地方のブドウ畑は
そもそも規模が小さいものが多く、
機械を導入することが物理的にムリ
という面もあるそう。

例えば左はミーニョ地方のある地域の写真ですが、
ぐるっと見渡せるほどの小さな畑の周囲に
ブドウの木が囲いのように張り巡らされ、
そのまん中では、トウモロコシやジャガイモ、
コーブ・ガレガ(ポルトガルでよく食べる結球しないキャベツの一種)
などの野菜類が植えられています。

ひと昔前まではこういう条件下でのブドウ作りが多かったそうです。
ひとりひとりの畑が小さい中でいかに多くのブドウを植えるかという、
苦肉の策だったそう。
しかし時代は移り変わり、
今はそれぞれがブドウ専門の畑を持つようになった。
でも、手摘みの方法は変わっていないというわけ。

マセレーション24時間後の果汁をちょっと味見。
まだまだブドウジュースの段階です。
このメーカのワインプロデューサー
(ワインの味を決める責任者)は
女性。メルガソだけではなく、
各地で女性プロデューサーに出会いました
ブドウを集めたら
醸造所ではブドウの粒がついている
小さな枝をはずす除梗(じょこう)、
さらにブドウをつぶす破砕(はさい)の作業を経て、
皮と果汁と種の混合物がつくられます。
ここまではなるべく早く、
ブドウを酸化させることなく、
大至急の作業です。
それらを一定時間、良い条件のもとで
混合物を漬け込んだまま寝かせま(マセレーション)。

ポルトガルでは、
私が見たワイナリーはすべてステンレスタンクで
マセレーションを行い、
温度管理も厳密に徹底されていました。
タンク内の温度を計る装置は当然標準装備で、
一か所に計器が集められていて常にチェックが可能。
おいしいワインをつくるには
もはや当たり前の機能です。


マセレーションの間に果汁が発酵すると
その熱で果汁の温度も上がり、
ワインが劣化してしまいます。
だから温度管理は非常に重要なのです。

ワインづくりには、

・ブドウの質
・地質と天候
・醸造中の温度管理

この3つがとても大切だと、
どのワイナリーのワインプロデューサーも口を揃えて話していました。

さて、このメルガソのヴィーニョヴェルデは

何が一番の売りかといいますと、
アルバリーニョというブドウです。

アルバリーニョは、ほかのブドウとちょっと扱われ方が違います。

まず産地が限定されていて、このメルガソと、隣のモンサォンでとれたものだけが
アルバリーニョと認められ、ワインボトルにブランド表記することを許されます。



アルバリーニョ100%のエシュプマンテ
(スパークリングワイン)。
泡とともに、リッチな香りが広がる

どこがそんなに特別なのか。

決定的なのが味です。
このブドウは早飲みタイプのものではなく、
寝かせて熟成を楽しんだりすることのできる、
ワイン業界の人の言葉を借りれば
〝ポテンシャルの高い〟ブドウです。

実際、このブドウでつくったワインは

他のフレッシュなものと比べるとかなり芳醇。
グラスに注ぐとアルコールも強く、
香りに芯の強さのようなものを感じるリッチさがある。
あきらかに他との違いを感じます。

アルバリーニョというブドウは、
ポルトガル北部と隣接するスペインのガリシア地方の
リアス・バイシャス地域でも同じように育てられていて、
やはり市場価値の高いワインを生み出しています。






瓶の中で1年間熟成させた
ヴィーニョヴェルデは品のある香り

一概には言えませんが、
1ユーロを100円に換算して例を上げると、
テーブルワインとしてのヴィーニョヴェルデが
一般に1本だいたい300円前後だとすると、
アルバリーニョ100%のヴィーニョヴェルデは
1000円以上のものもあります。
ちなみにガリシア地方でつくられているアルバリーニョの白は
もっと値の張るものもあります。

話は少し逸れますが、

日本のワインはどうしても他国と比べると
値段が高くなってしまいます。
輸入ものが大多数というのが
その大きな理由でしょう。
輸入だと元々の価格に税金や輸送費その他が
イヤでもドンとプラスされますし、
最初からつくられる量が限られている希少品には
当然さらに付加価値がつく。
仕方がないことなのですが、
私たち日本人はこのせいで
ある程度ワインの値が高いのに慣れてしまっている。
だからヨーロッパなどで500円以下のワインを見ると、
大丈夫なの?とちょっと警戒してしまう人も少ない。

でも物価の安いポルトガルやスペイン、

イタリアなどに行くとつくづく感じます。
ワインが日常の飲み物の国では、
1000円以下のワインのバリエーションはかなり豊富で、
そのあたりがデイリーワインの一般価格。
つまり、その価格帯で味を競っているものが多い。
酒屋さんやスーパーマーケットに行けば一目瞭然です。
だから同じ500円のワインでも、
日本で買うのとブドウ産地の国で買うのとでは
かなり意味も内容も違います。

何が言いたいのかというと、
500円でも本当に安くておいしいワインがごろごろあるヨーロッパは、
実に羨ましいなあ、ということです。


話をアルバリーニョに戻しましょう。


つまりアルバリーニョはポテンシャルの高い、
ビジネスチャンスの広がるブドウなのです。
だからこのメルガソやモンサォンの人々が
アルバリーニョを大切にしている理由もよくわかります。
高品位ワインは、市場価値も高い。
いかにおいしい白ワインに育てるかも、
ワインプロデューサーの腕次第です。

メルガソのアルバリーニョ、
南魚沼のコシヒカリ、
大間のマグロ、
明石のフグ、
京都のタイザガニ
(なぜか魚介類ばっかり浮かんでくる……)

産地がブランドになるには、
やはりおいしいという決定的な理由があるということですね。
当たり前のような話ですが、
これって基本的には、
自然からの贈り物なんですよね。
いただきます、という言葉の意味を
あらためてかみしめたくなりますねえ。




血を使った腸詰は味に深みがあります。
塩気はそれほど感じません
さて、夜はこちらのヴィーニョヴェルデを持参して近所のレストランへ。
北部ミーニョ地方の食卓には
腸詰やハムが欠かせません。
席に着くなり前菜の肉類が
どんどん並べられます。

この黒いのは、豚の血を使った腸詰
「ショリッソ・デ・サング」。
真っ黒なのではじめてみる人は
ちょっと驚くかもしれませんが、
こくのあるしっとりした腸詰です
豚の血の一滴まで残らず料理に使うのは、
ポルトガルのみならず、
ヨーロッパでよく見る調理法です。





マイルドな塩気。上に乗っているのはヤギのチーズ

それから生ハム。
北部のBisaroという豚を使っていて
柔らかく、豚肉のうまみと甘味もしっかり。
なんかしょっぱそう、と思いましたか?
いえいえ、これがほど良い塩加減なんです。
お昼どきなら、
パンにこのハムとチーズだけで
十分に満足できそう。








はじめた食べた、皮なしアリェイラの素揚げ!
もう一度食べたい
そして、今回食べたものの中でも
印象的だったのが、
皮なしアリェイラの素揚げ。
皮なしの素揚げは珍しく、
お店のオリジナルだそうです。

アリェイラとは、豚の腸詰を模した
鶏肉とパンを使った腸詰で、
ポルトガルではかなり一般的な食材です。

この腸詰はストーリーがあります。
かつてキリスト教徒を装って
暮らしていたユダヤ教徒が、
自分達が本来食べられない豚肉の腸詰を
日々食べているように見せかけるために、
鶏肉とパンを使って
このアリェイラをつくったそう。
普通の腸詰のように軒先につるして、
私たちはユダヤ教徒ではない、とさりげなくカモフラージュしたと聞きます。

この店ではそのアリェイラの皮をとり、
オリーブ油で揚げていました。
パンと鶏肉をよく練ってつくったアリェイラの素揚げは、
むっちりとした食感とまわりのサクサクがおもしろいバランスで、
香りがしっかりあるアルバリーニョの白にもよく合いました。



鍋は直径約35センチ、深さ約15センチ。3人前です
そしてこの日のメイン。
肉ばっかりだったので、
どうしても魚と米の料理が食べたくなった
私の願いがかない、
「アローシュ・デ・タンボリゥ」
あんこうのリゾットになりました。

かわいいデザインの
北部らしい赤茶の陶器に入って、
登場です。
フタを開けると……








野菜と魚介の風味いっぱいのアンコウ雑炊。
ヨーロッパのはじっこで、
こんなに日本人好みの料理があるなんて!

はい、どうぞ。

トマトや野菜、魚介のスープがたっぷりです。
アンコウも大ぶりに切られた身が
いくつも入っていて、
下の方にはおいしいスープを吸ったお米が
これまたみっちり入っています。
何合分入っていたんだろう、
ああ、聞けばよかったなあ。







料理を持ってきてくれた店主のサビーノさんが
「好きなだけ食べてね、おかわりもあるよ」とにっこり。
ギマランイシュでおかわりの意味を学んだ私は、
もうおびえることはありません。

でも、やっぱり
「おかわりちょうだい」とは怖くて言えません!

~つづく~


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