2021/01/23

辛苦を彫む人。向田邦子のこと

青山スパイラルで開催中の、向田邦子没後40年特別イベントへ。ファンとしては、微かな残像を求めて逢いに行くような気持ち。密かにどきどきしながら。きっとそういう人は多いと思う。




向田作品の魅力には既に多くの評が出ているけれど、私が好きなのは水上勉が「思い出トランプ」の解説で書いた、直木賞に推したときの回想を綴った言葉。

ーーわずか20枚前後の短編3冊であったけれど、誰もが真似できぬ辛苦の世界へ入って彫(きざ)みこんでいるーー

そう、書くというより彫みこんでいる。そして、彫みこみ方が入念なのだ。容赦なく周到で、読んでいる方はあまりのリアリティに、読むというよりは覗き見してしまったような気持ちにさえなる。だからしばらくすると、もう一度覗き見してみたくなる。

向田作品は、生きている限り誰もが逃れられない辛苦を、滑稽にすら思えるように物語に仕立てる。全くジャンルは違うが、松本清張の作品にも同じことを感じるし、中島みゆきや宇多田ヒカルの歌詞にも。超訳になるけど、最近なら米津玄師の歌詞にも似たものを感じる。突き抜けた、辛苦を作品に彫みこむ才能達。

もし私が好きな作品を一つだけ選ぶなら、短編「大根の月」。子供が幼い頃、切れる包丁をしばらく持たせられなかったのは、間違いなくこの短編のせいでもある。

思い返すと、私が最初に向田作品に触れたのは、NHKのドラマ「阿修羅のごとく」。まだ9歳だったから意味はよく分からなかったけれど、子供が見てはいけないものを覗く感じで、妙にわくわくしていた。有名なテーマ曲は、演出家の和田勉が、トルコ軍楽隊が演奏しているのを持参したレコーダーで録音したものを元にしていたそう。あのオープニングも忘れられない。昭和は今より、大人の事情をあからさまに表現した時代だったのかも。

展示の詳細は @mukodakuniko_kakeru

開催は今週末1/24まで。
写真は「向田邦子が選んだ食いしん坊に送る100冊の本」の展示。知ってる本があるだけで、胸熱になってしまった。

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